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ダリルシェイドに戻るため黙々と歩いていた一行だったが、モンスターの所為で時間を食い、結局その日はアルメイダまでしか辿り着けなかった。 明日の朝は早いぞ、と言い残して宿の部屋へと最初に引き上げるリオンに続いて、ルーティ、スタン、フィリアと引き上げていく。 最後に残ったのはとマリーだった。 「。はこれからどうするんだ?」 マリーの質問に首を傾げ、は聞き返す。 「どういう意味だい?」 「そのままの意味だ。このまま一緒にダリルシェイドまで行くのか?」 その言葉で納得したのか静かに頷く。 の肯定に、ではその後は? とマリーは続ける。 「その後はどうするんだ?」 「自由気ままな旅に戻る、かな。……黒髪君が許してくれれば」 一応名乗ったにも関わらず、はリオンのことを黒髪君と呼び続けている。 そのことに苦笑して、しかしすぐに真顔に戻すと、マリーはの銀の瞳を見つめて言った。 「だったら、私達と行かないか? がいると心強い」 突然の申し出にきょと、とした後、にっこりと笑みを浮かべては頷く。 「神の眼を追う旅、か。楽しそうだからいいね」 「じゃあ決まりだな」 そういって笑うと、マリーはお先に、と言って部屋へと向かっていった。 明日も早いのだから、ちゃんと寝ないといけないぞ、と言う忠告も忘れずに。 眼が覚めたら、夜明け前だった。 時間の感覚はあたし達にとって、とても曖昧で。それはやっぱり、この身体を流れる血の所為だと思う。 そんなことを考えながら、ベッドから足を降ろし、縁に腰掛けたままぼーっと時間を過ごす。 ふっ、と頭を過ぎったのは従兄弟の顔。ゲーム馬鹿で、TODをこよなく愛し、その中の悲劇の少年を救いたいと思った従兄弟。それでも、従兄弟はあたしと違って世界を越えて助けようとはしなかった。 あたしは弱い。小さな頃両親達と世界を越え、彼に出会った。それから何年か経って、従兄弟とゲームをし、彼の最期を識った。そうしてまた、世界を越えてここに来てしまった。彼を、死なせたくないから。 けれど、それはあたしの自己満足の為だ。彼の意見を無視した、あたしのエゴだ。 だから迷っている。彼の死を受け入れるか、受け入れないか。 でも、きっと最後は…………。 「……馬鹿らし。あたしらしくないよ」 《……姉さん》 「ん、ゴメンね。ちょっと考え事してたんだ。…………身体、動かしてくる」 プロテクターを着け、腰に布を巻くとの柄から飾りを引く。その柄の先に更にロッドのようなものが付いていて、あたしは…………ぼくはそれを持って部屋を出た。 仕込み杖。もしくは仕込み刀。これはそう呼ばれる物だ。 宿の裏手の広い空間に来ると、飾りをボールペンのようにノックし、刃を出す。 小太刀と化したそれをしっかり右手に持つと、ぼくはそれを習った型に沿って動かす。 右から左へ、斜め上から下へ、切り返し、貫き、払い、そして、薙ぐ。 一通り終えると、太陽が顔を出していた。そろそろ仲間の誰かが起きてくるだろう。部屋に戻ろうか。 そう思っていたら、 「何をしている?」 後ろから声を掛けられた。 カトレット弟の、声。無愛想な。「ぼく」を知らない声。 「運動だよ、朝のね」 何のことはない、と肩を竦めつつ振り返る。マントを外したその姿は、危なく過去と重なるところだった。 ぼくをじろっ、と見つめると言うより睨め付けるその視線は、明らかに疑っているらしい。 そりゃあ疑いたくなるのも解るけどね。ぼくは不審者で、神殿に何故いたのか言ってなくて、それなのにこうして一緒にいて、とても、怪しい。 「夜明け前から、か?」 「見てたのか」 顔を歪めてぼくは呟く。見ていたならすぐに声を掛けて欲しかった。恥ずかしいだろ。 「フン、ちょうどいい。僕の相手をしろ」 「命令か」 普通は頼まないかな? 暇だったら、とか断って。……ああ、ぼくがここにいる時点で暇と判断されたのか。 シャルティエではない、レイピアを抜き放つと、カトレット弟はそれを構えた。ぼくも習って構える。 「どちらかが得物を飛ばすか降参するまで、だ」 「おーけぃ」 ニヤリ、と笑ってぼくはまず一歩を踏み出した。 それを合図に、レイピアと刀が重なる。鉄同士がぶつかった音を立て、衝撃が腕に伝わってくる。 カトレット弟の腕は細い。その細い腕からどうやってこの力を出しているのだろうか。一撃一撃が、重い。スタンに比べれば軽いのだろうが。 それを防ぎ、受け流しつつ反撃する。斬り上げ、刃を滑らし、跳ね上げる。突きを躱し、払い除け、薙ぐ。何度も刃が重なり、金属音を立てる。 鍔迫り合いになるとぼくの方から引き、それを追うカトレット弟の刃をまた受け止める。 そんなことが幾度か繰り返され、やがて決着が付く。 カトレット弟のレイピアを刀で巻き込むように跳ね上げ、彼の手から吹き飛ばす。遠くの地面にレイピアが突き刺さったのを確認し、ぼくは勝利の笑みを浮かべる。 「ぼくの勝ち」 「…………」 カトレット弟は何も言わない。何も言わず、ぼくを凝視する。何か、してしまったんだろうか? そのまま気まずい雰囲気が続きそうになったとき、 「リオン、。スタンを起こすのを手伝ってくれ」 マリーが声を掛けてきてくれた。 「ああ、今行く」 気まずい雰囲気が無くなったことにマリーへと感謝を送りながら、ぼくはカトレット弟を置いて足早に宿の中へと戻った。 眼が覚めたら、夜明け前だった。 いつもの通りに眠ったはずだが、何故か眼が覚めてしまった。身支度を調え、マントを羽織ろうとしたときにふ、と窓の外に目をやる。 何の気なしに見たのだが、眼下には小太刀を一心不乱に振り、剣術の型をなぞっているの姿があった。 まるで何かを吹っ切るかのように、ただがむしゃらに小太刀を振る。それでもある種の洗練された物を垣間見せる太刀筋。 白々と夜が明けていく。それでもは小太刀を振る手を休めない。 静から動へ。右から左へ、斜め上から下へ、切り返し、貫き、払い、そして、薙ぐ。 荷物から予備装備として持っていたレイピアを取り出すと、部屋から出て宿の裏手の空間へと行く。 最後の一太刀だったのか、小太刀を振ったの動きが止まり、両手がだらりと身体の横に下げられた。 ぼうっとしているのか、僕に気付かずに空を見つめている。 「何をしている?」 背後から声を掛けてみた。 一瞬だけ肩が震える。驚いたから、というわけではなさそうだ。跳ね上がるように、ではない。 「運動だよ、朝のね」 何事もなかったように肩を竦めつつ振り返る。 けれど、何処か無理しているような表情。ルーティに晶術を掛けられた後の表情とよく似ている。 「夜明け前から、か?」 「見てたのか」 顔を歪めて呟いた顔は、先程の影を全く残していなかった。 「フン、ちょうどいい。僕の相手をしろ」 「命令か」 言えば、苦笑しつつ小太刀を握り直す。 レイピアを抜き放つと、僕はそれを構える。それにあわせて、も小太刀を構えた。 「どちらかが得物を飛ばすか降参するまで、だ」 「おーけぃ」 ニヤリ、と笑っては一歩を踏み出した。 の腕は細い。その細い腕からどうやってこの力を出しているのだろうか。一撃一撃が、重い。だがそれはルーティに比べればの話だ。 それを防ぎ、受け流しつつ反撃する。斬り上げ、刃を滑らし、跳ね上げる。突きを躱し、払い除け、薙ぐ。何度も刃が重なり、金属音を立てる。 鍔迫り合いになるとは逃げるように後ろへ下がる。それを追い、剣を振ると受け止められる。 そんなことが幾度か繰り返され、やがて決着が付く。 僕のレイピアを小太刀で巻き込むように跳ね上げ、手から吹き飛ばす。遠くの地面にレイピアが突き刺さったのを確認し、は勝利の笑みを浮かべる。 「ぼくの勝ち」 「…………」 そう言って笑った顔が、彼女に重なった。思わず凝視してしまう。 そのまま気まずい雰囲気が続きそうになったとき、 「リオン、。スタンを起こすのを手伝ってくれ」 マリーが声を掛けてきてくれた。 「ああ、今行く」 そう言っては僕に背を向けると、足早に宿の中へと戻っていった。 残された僕はレイピアを拾うと、この想いにどうやって決着を付けるか考えていた。 後書き |
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