“つーかーれーたーっ! 馬鹿ー! 全力で来るなーっ!”
“それを全力で迎え撃つお前が悪い”
“あたしは負けず嫌いさ☆”
“…………”
“黙るなよぅ”
 そう言いながら剣を引きずるようにして歩いていた少女の姿。それがいつの間にか背後から目の前に移動していたと被る。
 疲れた、面倒、やなかんじー。そんなことを言い始めると必ず持っている物を引きずり始める癖のあった少女。
 ある一ヶ月の間、毎日決まった時刻に妹と現れ、手合わせをして帰って行く。その姿に、重なった。
 そう思いながらリオンは眉根を寄せた。
 何故彼女と重ねてしまうのか。は彼女ではないはずなのに。それどころか、女性ですらないと思うのに。
 コレで女性だった、となったらどう取り乱すのだろうか。取り乱さないかもしれない。
「おー、開いてる開いてるあーいーてーるー。……ぼくなにもしてないのに」
「俺達が頑張ったからね」
「む。……ぼくのとこだけ知能が高かったんだい!」
「ふん、それでもやられるんだ。お前の力不足だな」
「チッ。そうくるかぃ」
 舌打ちし、を握る手へ更に力を込める。相当悔しかったようだ。
 ブツブツと文句を言いながらも扉を開き、閉じ込められていた神官を助け出す。
 リオンがその神官を神の眼について問いつめている最中、はひょい、とその先へ足を進める。
「何処行くのよ?」
「知識の塔なんだからさ、書物の元に行こうかな、と」
 折角だし、ね?
 そう言って歩いていこうとするの手を掴み、スタンが引き留めた。
も折角だから一緒に行こうよ」
「え、面倒だ」
「そんなこと言わずに!」
 その手を振り払って歩いていこうという考えはないのか、最終的にはが折れた。
 降参、といった調子で両手を挙げて肩を竦める。
 と、ちょうどリオンの尋問が終わったのか、神官が動き出した。見ようによっては神官が行動するまでスタンとじゃれていたようにも見える。
 神官の後に続いたと、逃がさないといったようにその手をまだ掴んでいるスタンを見ながら、マリーとルーティは肩を竦めた。
 そんなこんなで神官に付いていき、辿り着いたのは聖堂だった。広いそこで今にも神への祈りを捧げようとしている神官の脇を通り、
「面倒だって言ったじゃんか」
 がちゃん、とスイッチを入れる。
 隠し扉が開くが、は神官に詰め寄られた。
「神への神聖なる祈りを邪魔するとはどういう了見ですか!」
「どうせスイッチ入れるだけだし。いいんじゃん? 神だってんな事いちいち怒れないでしょ」
「だからって……! いえ、それ以前に何故スイッチのことを?」
「勘」
 のらりくらりと追求を逃れつつ、はひらひらとスタン達に手を振る。
「先に行ってるぞ」
 マリーの言葉に頷くと、神官の追求をどう終わらせようかと思案を始める。
 軽く銀の瞳を伏せ、当たり障りのない言葉を選びだそうとする。
「ん、とりあえず行かなくていいんですか? 神の眼、あるんでしょ」
 そう言ってやれば効果は抜群。そうでしたと歩き出す神官を溜息混じりで見送り、
「……この先の展開、解ってるんだけどね」
《それでも行かないと、スタンに怒られるよ?》
「いや、怒らないでしょ。何で来なかったか聞かれるだけで」
《あー…………それもそうね》
 二、三と喋ってからその後を追って隠し扉を潜っていった。

























 そこには何もなかった。
 あると言えばあるんだけど……ただの石像だし。あ、でもよく出来てるな〜。今にも喋り出しそうだ。
「いい仕事してるわねー」
 ルーティがそう言って石像を観察している。「売ったらいくら位になるかしら」って言う言葉は…………聞かなかったことにしておこう。うん。
 そんなルーティと石像の側にが歩いていって、るるかを構えた。
「ルーティ、売れないからね? 彼女は」
 まるで人を売るなよとでも言いたそうな口調。あれ、でもそこにあるのって、石像だよな?
「行くよ?」
《リカバー》
 が異常回復系の晶術を使う。
 規格外のソーディアンって、自分で晶術使えるんだー。凄いなー。ディムロスもそうだったら、俺、楽なのに。
 そんなことを考えていたら、石像が光って人間になる。…………って、人間!?
「えええっ、女の子だったのか?!」
「気付かなかった? 思いっきり生き生きしすぎでしょ」
 でも、そういうもんなのかなー、って。
 普通思うじゃないかっ。ルーティだって売る算段考えてたし! あ、だから「売れない」って言ったのか。
ってよく見てるんだね」
「見てない方がオカシイでしょ」
 呆れられたみたいだ。視線が冷たい……。
 石像から元に戻った女の子から名前とこれまでの経緯を聞き出すと、リオンがさっさと先へ行こうとする。
 俺としては、彼女、フィリアを連れて行きたいんだけど……。
 こんなとこにずっといたら、可哀想だし。
 そう思っていたら、がフィリアの手を握って言った。
「グレバムを捕まえるためにキミの協力が必要だ! 是非付いて行ってやってほしいんだけど、いい? フィリア」
「何故そいつを連れていかなかればいけない」
 の言葉にリオンが反論する。俺はただ首を傾げるだけ。
「だって、グレバムの顔、知ってる?」
「…………」
 そう言えば、ここにいるフィリア以外まともにグレバムの顔知ってる奴っていないんだよな。
 だから協力が必要なのかな。
 …………なんだかは先のことが見えているような気がする。
 この部屋に入るためのスイッチだってそうだ。普通、勘で見つけられるかな? あと、扉の結界。どうしてああすれば消せるって知っていたんだろう。これも勘だって言ってたけど。
 うーん、やっぱり勘なのかなぁ。でもそうだとしたら凄いよな。勘で神の眼を持ってったグレバムの居場所、解らないかなぁ。
 考えていたら話は纏まったらしくて、フィリアが改めてよろしくお願いします、と頭を下げていた。
 慌てて俺も頭を下げ、フン、と鼻を鳴らして部屋を出ていこうとするリオンの背を慌てて追った。








後書き