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王の密命によってストレイライズ神殿へと来た僕達は、中に殆ど人の気配がないことに気付く。その代わりにあるのはモンスターの気配。 やれやれ、最初から戦闘か。…………こいつ等が役に立つか甚だ疑問だな。 頭にティアラを付けたスタン・エルロン、ルーティ・カトレット、マリー・エージェントという三人の罪人をちらりと見てから僕は神殿の扉を開ける。中には予想通りモンスターがいた。 だが、モンスター達は上体を低くし、上の方に向かって呻っていた。 その視線を追うと、床から二メートルほどの所に蒼く光る楕円状の物体が浮かんでいた。どうやら僕達よりもそちらの方を危険視しているようだ。 「何あれ」 「わからん。だが近づくしかないだろうな」 ルーティの言葉にそう言うと、シャルに手を掛けつつ僕はその物体に近づいていった。 通路の前になければこうして進んで近づくこともなかったのに、迷惑な物体だ。 すぐ近くまで来ると、いきなり物体が膨らんだ。いや、解けた。 その物体を構成していたのは、蒼い。 「……………………蝶?」 無数の蒼い蝶が僕達の前を、上を、横を、通り過ぎていく。 その蝶の大群の中から現れたのは、一人の少女だった。ゆっくりと降りてくると、足が床に着いたところで膝から頽れ、長い黒髪とそれを結った水色のリボンを靡かせて上体が傾ぐ。 慌てて支えると、腰でシャルの驚いた気配を感じた。……フン、どうせ僕に似合わない行動だとでも言うんだろう。 『、何故ここに!?』 ここに揃った三本のソーディアンの声が重なる。 「ディムロス、知っているのか?」 スタンの声で我に返ったかのようにディムロスが呻る。 それに溜息を吐き、僕はシャルに声を掛ける。 「シャル、話せ」 『え、あ…………はい』 シャルもどうやら話すべきか迷っているらしかったが。だがすぐに話し出す。元から喋ることが好きなのだ、こいつは。 『、って言うんですが、彼女は僕達のオリジナルがいた天地戦争時代にふらりと現れて、五人の仲間とハロルド・ベルセリオス博士を手伝っていたんです』 僕はシャルの言葉に眉を顰める。天地戦争時代と言えば、今からざっと千年ほど前だ。 「何故その時代の人間がここにいる」 『彼女は私達の時代の人間ではないの』 アトワイトが意を決したように口を開く。どちらにしても何故ここにいるのかがわからない。 腕の中の少女に少し視線をやり、戻してソーディアンの言葉を待つ。 『彼女は……五人の仲間と一緒に未来から来たのよ』 『思い出せたのはそのことと名前、彼女の容姿だけだが…………。断言していいと思う』 『彼女が十七歳ならね』 自信なく言うソーディアン達。恐らくその時の記憶があやふやなのだろう。 兎に角一般人と思われる人間をモンスターの真ん中に置いていくわけにも行かないだろうな。 溜息を吐くと、少女が目を覚ました。僕の顔に焦点を合わせた後、あちらこちらへ視線を彷徨わせる。 その様子に訝しんでいると、 「あのぉ」 よく通る、彼女に似た声で聞いてきた。 「ここは死後の世界でしょうか、七人の個性的な天使さん達」 黒い瞳に浮かんでいる感情は、恐らく困惑。だがそれは僕達も感じているもので。 「七人? ここにはオレ達四人しかいないよ?」 スタンが首を傾げて周りを見る。周りのモンスターも獣型しかいない。七という数は一体どこから来たのだろうか。 よいしょと掛け声を掛けつつ身体を起こし、少女は周りをきょろきょろと見る。 「…………ペットの放し飼い?」 「何処をどう見たらそうなる」 『この天然のような発言……』 『ああ、間違いない。だ』 少女の発言にアトワイトとディムロスが苦笑混じりに呟くと、その黒瞳を瞬かせて少女は首を傾げる。 「あら、いつの間にか四人に。と、言うかどうして私の名前を?」 やはり彼女はという名前らしい。 …………ちょっと待て。 「おいお前。ソーディアンの声が聞こえるのか?」 「そーでぃあん?」 きょとん、として僕を見る少女。暫し考えるように俯いてから顎に手を添え、それでも何も浮かんでこなかったのか頭を振る。 再び僕の目を捕らえたその瞳は、ただ真っ直ぐだった。 「それが何かは知りませんけど、聴こえるのは珍しいんですね」 珍しい言い回しだった。 「聞こえる」ではなく、「聴こえる」。まるで身体の何処で聴いているのか解っているかのような。 僕は前者の「きこえる」を使った。それは彼女がソーディアンに関わりなさそうな、細かい違いなどわからないような一般人だろうからだ。けれど、聴こえたからには何処で聴こえたのか感覚的にでもわかると言うことだ。それを失念していた。 溜息を吐くと、僕はとりあえずシャルを抜き放つ。 「詳しいことは後だ。お前は下がっていろ」 蒼い楕円の物体がなくなったからだろうか、モンスターの注意は僕達に向いている。戦うしかなさそうだ。 「おい、お前達。足を引っ張るなよ」 「ちょっと、何よそれ!?」 「いいから行くぞ!」 そう言い放つと、僕は後ろも見ずにモンスターへと斬りかかっていった。 後書き |
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