第8話 明かされたコト










「あ、やっぱ呆気ない」
 人数が多かったからか、はたまたの恐怖を体で知っていたからか。
 手下達はすぐに倒されたり逃げ戻っていったりしたが、それでもハヤト達にはいい経験になっただろう。
 気絶した手下達はそのままクレーターの中に放置し、たちは縁まで登るとバノッサの前に立つ。
「さぁ、を返して貰おうか」
「ククク、人質がいると解っていて反抗するのか?…………カノン!」
「あ、出番ですか? バノッサさん」
 バノッサが言うと、岩陰から少年がひょこんと顔を出した。
 優しそうな雰囲気を持つ少年は、今この状況には全く似つかわしくない。
「誰?」
 怪訝そうに聞くと、少年はへら、と笑って自己紹介をする。
「そこのお兄さんお姉さん達には、はじめましてかな? ボクはカノンっていいます。一応バノッサさんとは義兄弟なんですよ」
「あ、丁寧にどうも」
「初めまして」
 慌ててカノンに頭を下げる、ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤの五人。
 その様子にイライラしたのか、バノッサが声を張り上げる。
「なにしてる、カノン! さっき捕まえたあいつを見せてやれ!!」
「はいはい」
「!」
 もちろん岩陰から引っ張り出されたのは。しっかりとカノンに両手を掴まれている。すぐに逃げられそうにない。
を離しなさいよ!」
 気丈に言うを見下ろし、バノッサは勝ち誇ったように口を開いた。
「おいおい、なんだその態度は? カノンはああ見えて力はめっぽう強いんだ。ちょいと加減を間違えりゃ……クククッ。そうして欲しくねェのなら、さっさと武器を捨てやがれ!!」
 人質を取られては言うことを聞くしかない。
 仕方なく全員が武器を足下に捨てると、ニヤニヤと手下達が近寄ってくると、そのまま無抵抗な彼らに暴力を振るい始める。
 その様子を見るに堪えかねたのか、を捕まえたままでカノンがバノッサを見上げた。
「………………ねえ、バノッサさん。もうここらでやめときません?」
「あァ?」
「ボク、こういうのって好きじゃないですよ。気分悪いです……」
「何を言ってやがる、これからじゃねェか?」
「でも……」
 ちらり、と目を伏せて唇を噛み締めているを見、苦しそうに言葉を吐き出す。
「ボク、もうイヤですよ…………。先に帰りますからね」
「……まあいい、好きにしやがれ」
 カノンからを奪うようにしてその腕を掴むと、その握力の強さに小さくが呻いた。
 を引き、達五人の近くまで行くとバノッサは歩みを止める。
「さて、と。……人数は増えたが、同じような服を着てるからな。手前ェら四人も同じようなもんだろ」
 じろり、と睨みつけると僅かにハヤト達四人の肩が震えた。
「手前ェらには少しばかり聞きたいことがある。…………ひょっとして召喚師なのか?」
「関係ないでしょ!」
 まだ大まかにしかこの世界について理解していないハヤト達に代わり、が声を上げる。
 それに対し、ふん、と鼻を鳴らしただけでバノッサは話を続ける。
「大ありだぜェ? もしそうなら、手前ェらには助かる道があるってことになるんだ」
「!?」
「俺様に召喚術を教えろ。そうすりゃ、今までのことは水に流してやる。さァ! どうなんだッ!?」
 そんなことを言われても信用なんてできない。それ以前に、召喚術というのがなんなのか、もよく解っていないのだ。
 断ろうと口を開き掛けたときだった。

『信じろよ……』

「え!?」
 唐突に聞こえた言葉にの動きが止まる。
 ハヤト達を見てみれば、同じように驚いた表情をしてお互い顔を見合わせていた。

『自分の力を……』

 なおも声は聞こえる。力強く、後押しするように。
「どこ……どこにいるの!?」
「一体誰なんだ!?」
 思わず声を出してしまう。
 怪訝そうに眉を寄せ、バノッサは五人を見つめる。

『あなた達の中の力を解き放つんです……。さあ!』

 その言葉と同時に、強い力が内側から溢れ出してくるのが解った。
 力の流れに逆らわず、寧ろ身を任せるようにして叫ぶ。
「このぉぉぉっ!!」
 次の瞬間、大きな音を立てて光が溢れる。
 その光が出ているのは、からだけではなかった。ハヤト達四人からも同じように出ている。
 光が向かうのはバノッサの方向。それすなわち、の方向でもあって…………。
!」
 が叫ぶのと同時に光が炸裂した。
「ぎゃあァッ!?」
 苦悶の声を上げ、バノッサはを離して自身の両目を押さえる。あまりにも強い光に目が焼かれたのだろう。だがこれといった外傷はないようである。
 離されたにも外傷はない。どうやら光だけですんだようだ。
 武器を拾い、怯んだ手下達を倒してガゼル達がこちらへ駆けてくる。
「大丈夫か? お前等」
「当然!」
「はい!」
「よし、ずらかるぜ!!」
 最小限の会話で無事を確認すると、まだ視力の戻らないバノッサとその手下達を置いて召喚儀式場跡を後にした。















「……みんな無事か?」
 召喚儀式場からだいぶ離れた場所で立ち止まり、レイドが無事を確認する。
「ああ。フィズもこのとおり」
「ひっく、ひっく……」
「泣くんじゃねぇ! 怒らねえから、な?」
「う、うん……ぐすっ」
 全員無事であることを確認すると、ほっと安堵の息が漏れた。
 そして話は先ほどの光についてになる。
「しかし、助かったよ。…………あれは偶然なのか?」
「いや、あれは……」
「無事だったみたいだな」
「よかったですね、無事で」
 偶然とは違うと思う、と言おうとしたときに第三者の声が割り込んできた。
 振り向けば、五人の少年少女達。歳は達六人と同じだろうか。
「なんだてめぇ等は!?」
 いきなり現れた五人に警戒心を露わにしてガゼルが問う。噛みつきそうなその勢いを、肩を掴むことでが制する。
「待って、ガゼル!」
「この人達なんだ、先刻助けてくれたのは」
「あの光を使うように私達に教えてくれたんです」
「なんだって……!?」
「いや、俺達はきっかけを与えただけさ。あれはお前達の力だよ」
「あなた達の力で危機を乗り越えたんです」
 そんないきなり現れた五人を訝しげに見てエドスは改めて聞く。
「あんた等は、いったい?」
「僕の名前はキール。それから順にソル、クラレット、カシス、ニッカ。…………彼等がこの世界に何で呼ばれたかを知ってる、って言ったらどうする?」
「えっ!?」
「なんだって!?」
 驚いて目を見張る達。彼らがこの世界に来たのは、召喚術によってのこと。理由を知っているはずの召喚術を行使した召喚師達は全て、死んだはずなのだが。
「だとすれば……君達は召喚師なのか?」
「ああ、そうだ」
「召喚師だあっ!?」
「五月蠅いガゼル」
 召喚師嫌いのガゼルの顔面に裏拳を決めて沈ませると、は肩を竦める。
「とりあえずさ、」
「とりあえず、ここじゃない場所へ行こう。またいつ先刻の奴らが出て来るか解らないから」
 トウヤがの言葉を遮る形で提案する。
 同じ事を考えていたことに驚き、二人は顔を見合わせると苦笑する。
「それもそうだな。……アジトへ行こう」
 頷き、レイドがハヤト達四人と召喚師五人の方を見て異存はないか確かめる。彼らは異存ないようだった。その次にフラット組を見る。
「またバノッサに出てこられても困るからな」
「…………ケッ」
「フィズちゃんもいますし」
 アジトに向かうことに誰も反対しなかったので、そのままサイジェントのアジトへと向かう事になった。















「なんだって!?」
 がたん、と勢いよく立ち上がった所為で椅子が倒れる。
 テーブルに叩き付けた手がじんじんと痛みを訴えかけるが、それはこの際無視することにする。
「つまり、あたし達がこの世界に来たのは事故でした、偶然でしたって言うの!?」
、落ち着いて」
 興奮気味のを落ち着けようとの手の上に自分の手を乗せる。
 でも、という目で訴えかけるを押し止める。
「彼等だって、私達を呼びたくて呼んだわけじゃないんだもの」
「…………そ、だね」
 椅子を直して座り直したの様子にほっと一息吐いたところで、ハヤトが聞く。
「俺たち四人と彼女たち二人。……ここに来た時間が違うみたいだけど?」
「それは僕も知りたいな」
 ハヤトとトウヤの言葉に頷くのはアヤとナツミ。どうやらはあまり気にしていないらしい。
 そんな四人と、それから周りにいる全員に説明する役はクラレットに与えられた。
「多分、召喚されるときに何かしらの影響で時間がずれたんだと思います。だからこの世界に現れた時間もずれたんだと」
 そうか、と呟き黙るトウヤ。他の面々も黙って色々と考えているらしい。
 最初に沈黙を破ったのはエドスだった。
「……事故だということならすぐに彼等を元の世界に戻してくれんか?」
 その言葉に首を振り、
「ダメだよ、できない」
 俯いてカシスが言葉を発した。
「なんだと!?」
「儀式をしてた召喚師はみんな死んじゃったの。生き残ったのはあたし達五人だけってわけ」
「帰れない、の?」
「責任は感じてるんだよ」
 口を噤んだカシスに代わってソルが口を開く。
「そこで相談なんだがこいつ等を帰す方法が見つかるまで、俺達もやっかいになるぜ」
「どういうことかな」
「しばらくやっかいにならせてくれってことだよ」
「なぁんだとぉぉっ!?」
 今度はガゼルが立ち上がる番だった。
「おい、! こいつ等放り出してこい!」
「はぁ!? 捨て猫、捨て犬じゃあるまいし、放り出せるわけ無いでしょ!」
「食費とか考えてもみろよ! 一気に九人分増えるんだぞ!?」
「だからって見捨てるの!? あたし達の同郷人まで!」
「百歩譲ってそいつ等はいいとして、召喚師どもは駄目だ!」
「偏見よ!」
「…………あのぉ」
 ガゼルとの言い争いを止めたのは、小さく手を上げただった。
「えと、ハヤトくんとトウヤくん、強いみたいだからここの用心棒、出来るんじゃないかな。アヤさんはリプレのお手伝いできそうだし」
 ナツミさんはと同じタイプみたいだから、魚釣りとかしてもらったりして。
 そう言って小首を傾げてガゼルを見上げる。
「それに、はぐれを倒すとバーム、落とすでしょう? 強い人たちで出かけてお金稼ぎってのもいいと思うなぁ」
 ぽかん、とを見つめる一同。見つめられたは何かまずいことでも言っただろうかと慌て始める。
「…………召喚師達はどうするんだよ」
「私達が帰るためには必要不可欠な人たちです。追い出したらここに居着きますよ? 私達」
「ぐっ……」
 正論を突き付けられ、言葉に詰まるガゼル。
 よくやってくれた、とガッツポーズをするに笑みを浮かべながらVサインを送る。完全勝利と言えるかもしれない。
 口で勝てないと悟ったのか、がっくりとガゼルが肩を落とす。
「…………あーもう、解ったよ。好きにしろ」
 ガゼルの言葉に顔を輝かせるハヤト達異世界組とキール達召喚師組。
「よかった! ありがとう、ガゼルさん!」
 ニッカがそう言ってガゼルに飛びつく。
 やめろくっつくな飛びつくな、という抗議は綺麗に無視されている。それを真似しようとして、ナツミとハヤトがガゼルに躙り寄って来る。対するガゼルは逃げようにも身動きが取れず、結局ナツミとハヤトの餌食となった。
「本当にすみません。僕達も出来るだけ生活費を稼ぐようにしますから」
「いいのよ。そんなことより、早く帰れるといいわね」
 トウヤとリプレはナツミとハヤト、ガゼルの方を見ないようにして会話している。助ける気はないようだ。
 エドスは豪快に笑い、レイドは苦笑しつつ見守っている。こういう事を止めそうなアヤでさえ、微笑を浮かべながら見守っていた。
「…………ニッカ、早く離れてあげたらどうだ?」
「はーい」
 キールの言葉に簡単に頷くと、ニッカはガゼルから離れてソルの隣へと移動する。そんな遣り取りや行動は日常茶飯事なのか、召喚師達は溜息を吐くだけで取り立てて何かを言うことはなかった。
 そんなにぎやかなフラットを見て、は顔を見合わせて苦笑するに留めた。