第5話 一騒動
玄関から中へ戻ると、ちょうどリプレがやってくるところだった。
がリプレに気付くのとほぼ同時にリプレも気付き、声を掛ける。
「あ、。ちょっといいかな?」
「うん、いいよ。用事終えたし」
「用事、って…………。あ、まさか」
リプレがの行ってきた場所を考え、眉を顰める。
それを否定せず、逆に肯定するように笑顔を作る。というより、普通に笑う。
「あははははー」
「あははじゃないわよ。気にしなくていいって言ったのに」
呆れたように言うリプレに面目ない、と呟いては話を先へ促す。
「あのね、これから買物に行くんだけど」
「買い物? 付いてっていい?」
「うん。それを聞こうと思って」
買い物という単語に目を輝かせるに苦笑し、リプレは広間の方を見た。
「だからを呼んできてくれると助かるんだけど。息抜きにちょうどいいでしょ?」
「おっけーおっけー、任された! じゃあ呼んでくるねっ」
ぱたぱたと軽快な足音を立てては広間の方へ駆けていく。
広間を覗くと、がぼーっとしながら宙を見つめていて。
足音を立てないよう細心の注意を払いながらその背に近寄っていく。
「〜w」
「きゃっ!」
いきなり後ろから抱きつかれ、驚いた声を上げる。
そんな様子に笑いながら体を離すと、安堵の息を吐いてがを見た。
「にひひひ、驚いた?」
「驚くわよ、もう。急に来るんだもの」
「ごめんごめん。リプレがね、買い物いこうって。ついて行きがてら、街を案内してもらおうよ」
「そうね、迷惑じゃなければそうさせてもらいたいな」
「じゃ決まりだねっ。玄関にいこ♪」
ぐいぐいと引っ張られ、玄関につくとリプレの他に不機嫌そうな――――元からそういう表情というわけではないだろう――――顔のガゼルがいた。
ぶつぶつと文句を言っているらしく、推測するにどうやら薪割りの最中に呼ばれたらしい。
「おっ待たせ〜」
ひょいと軽く片手をあげてリプレに合図する。
にっこり笑うと、リプレがガゼルに駄目押しの一言。
「女の子だけで行かせないわよね? ガゼル」
「……………………わーったよ」
そんなガゼルの肩に手を置き、
「がんばれ、ボディーガード!」
「テメェだけはガードしてやらねぇ」
の笑顔が引きつる。
引きつった笑顔のままの方を向き、は泣きつく降りをする。
それを慰めながらリプレと顔を合わせ、苦笑を浮かべた。
アジトを出てスラムを暫く進むと、先頭を歩いていたガゼルがリプレを振り返り聞く。
「で、どこへ行くんだ?」
「まずは用事を先にすませちゃわないとね。商店街に行きましょ?」
「商店街? どんな感じ?」
「ん〜、人が結構いるわよ」
「あはは、やっぱそうだよね」
楽しみだなぁ、と呟いてがリプレの手を引き、走り出す。
「あ、ちょっと待ってよぉ」
「にひひひひ〜」
リプレもつられて走り出し、そのあとをガゼルとが追う形で四人は商店街へと向かった。
「はい、ここが商店街。色々なお店が並んでるからたいていの品物はここで買えちゃうよ」
商店街の入り口で、の暴走から解放されたリプレが説明する。
向こうの世界とほとんど変わらない様子。人々が出入りし、店先に品物が置いてあり、そして店主と客の交流がある。
どこへ行ってもこういう雰囲気だけは変わらないのだと安心できる空気。
「………………ええ、商店街ですね」
自分が住んでいた世界とは違う世界なのに、どこか懐かしいような。
そう呟いたを小首をかしげて見つめたあと、リプレが二人に言い放った。
「さ、何から買う?」
「へ?」
もちろんそれで戸惑わないはずがない。
しかしガゼルはその意味に気づいたらしく、眉をしかめて、
「おい、リプレ。もしかして買い物ってのは……」
「そうよ。彼女達の身の回りの品を買うの」
こともなげに言うと、お金を取り出す。
「一応レイドから預かってるの。だからお金は気にしないで。……って言っても、値段は読めないかな?」
苦笑しながら二人を店に押し込む。
が振り返ると、ガゼルは溜息を吐き別の店の品物へと目を落としていた。
素直にお言葉に甘えることにしたものの、値段どころか品物の名前が読めない。
「こ、これなんて書いてあるのよ…………。文字がぜんぜん違うし〜」
くらくらする頭を押さえながら呟くに、
「それはFエイドって言うんだって」
が小さな声で囁く。
そっか、と呟くと、にウィンクする。
「さんきゅ」
憶えておかなきゃ。
一人頷くと他の品物へと視線を走らせる。
どれもこれも異国の文字で書かれているが、何となく用途が解る物が幾つかある。
武器や鎧などの装備するための物。中世かファンタジー世界のものだと思っていたが。
「……………………あ、ここって直球ど真ん中でファンタジーの世界だっけ」
「何いきなり言い出すのよ、」
「あはは、すっかり忘れてたんだもん」
「もう」
呆れたように呟くに頭を掻いて、そういえばと続ける。
「はここの文字、読めるんだね」
「え、あ、うん……………………」
「いいな〜、後で私にも教えて!」
「……解る範囲でいいなら」
「やたっ!」
小さくガッツポーズを決めると、上機嫌で必要そうな物へと視線を向ける。
いざというときの護身用としてナイフを二つ、Fエイド幾つかを購入する。
ナイフをそれぞれ取り出しやすい位置に装備するとを見て、買い忘れはないかとリプレが声を掛ける。
「ううん、ないよ」
「十分です」
「そう? じゃあ買い物も終わったことだし、今度は街を案内するわね。行きたい場所、ある?」
リプレの言葉に二人は顔を見合わせ、声を揃えて言う。
「この街で迷わない程度に案内して」
見事に揃った言葉に笑いながら頷くと、リプレはまだ不機嫌そうなガゼルと共に二人を先導しながら町の案内を始めた。
一通りリプレがガゼルと共に案内をし終え、繁華街へと足を向ける。ちょうど北スラムからの帰り道だったというのもあるが、殆ど気まぐれによる行為だった。
リプレとは世間話のようなとりとめのない話をしながら人混みを縫っていく。それを凄いなと感心しながら見守ると、まだ少し機嫌が悪そうなガゼルは二人より少し離れたところで見ている。
柄の悪そうな青年達の脇を通り過ぎ、人の波が少し減ったところで振り返ってとを見るリプレ。
「どう。少しはこの街のことがわかった?」
「はい、色々と。あとは迷わないようにするだけです」
案内して貰った場所を頭の中で地図のようにしながら、柄の悪そうな青年達の脇をが通り過ぎる。
「うん、ばっちし! ガゼルとリプレのおかげでね」
リプレにそう返しながら、柄の悪そうな青年達の脇をが通り過ぎる。
「ケッ、どうせオレはついでだろ?」
悪態を吐きながら、柄の悪そうな青年達の脇をガゼルが通りすぎる。
そこですれ違った青年達の内一人が振り返り、声を掛ける。
「おい、おまえら。ちょっと待ちな!」
頭の悪そうなセリフ。
そう思いながらもいやいやが振り向くと、すれ違った青年達全員がこちらを見ていた。やリプレ、ガゼルもにワンテンポ遅れて振り返る。
「おう。そこのおまえ、ここらじゃ見かけねえツラだなぁ?」
「そっちの奴も見かけねえなぁ?」
とをじろじろと見ながら青年の内二人が言う。
「……なに、コイツ等?」
「……無視しろっ! こいつらがさっき北スラムんとこで話した【オプテュス】の連中なんだよっ! 関わるとロクなことにはならねえ。無視するんだ」
「確かオプテュスって、物騒なゴロツキってことだったよね」
小声で会話し、その内容に眉を顰める。彼らはまさに狙ったようなタイミングで現れたことになる。
それはないか、と胸中で呟くと、
「なに黙ってんだよ、オラ! 口がきけねえのか?」
何も言わないたちに忍耐力が底をついたのか、青年達の中の一人が苛立ち混じりに言葉を投げつけ近づいてくる。
「おまえらと関わってるヒマはねえんだ。わかったら、とっととそこをどけよ」
少々声を低くしてガゼルが青年達に言う。だが、青年達はその言葉を聞いて今存在に気付いたとでも言わんばかりに下卑た笑いを浮かべた。
「おお、誰かと思えばコソ泥のガゼルじゃねえか?」
「女を三人もはべらせていいご身分じゃねえか……」
「こいつらは、そんなんじゃねえッ!!」
否定の言葉にさらに笑みを深くする青年達。
「いいからいいから照れんなよ、チビ?」
「そうだぜ? つれなくすんなよ?」
「ひっひっひ。いくら乳臭くっても女は女じゃねえか。ひひひ……」
「関係ねえって言ってんのが聞こえねえのか!? このうすらバカが!」
「お……なんだよ。やるっていうのか?」
「うひひっ。望むところだぜ!!」
恐らくそれが目的だったのだろう。まんまと乗せられ、ガゼルと青年達の間に気持ちいいとは到底言えない、戦い特有の張りつめた雰囲気が漂う。
青年達と睨み合いながら、ガゼルが背後にいたに向かって言う。
「おい、!」
「なによ」
「ぼけっとしてないでリプレとを連れてここから逃げろッ!!」
「…………え?」
「乗せられちまったのは俺だ……。お前らには関係ねえ。さっさと行けっ!!」
言いたいことだけ言うと、また意識を青年達の方へ戻す。否、戻そうとした。
そうさせなかったのは、すぐさま発せられたハッキリとしたの声。
「嫌」
「はぁ?」
ガゼルが信じられないとでもいうような顔でを振り返る。
それに胸を張り、自分の主張を口にした。
「あたし、売られた喧嘩は買う主義なの。難癖付けられて黙っていられるほど人間出来てないっての」
「おまっ…………。今は意地張ってる場合じゃねーだろ!」
「意地なんて張ってないわ。これはあたしの意志よ。……、リプレをお願いね」
「解った」
「っておい、お前らだけで話を進めるな!」
「あーはいはい、あんたは向こうから意識逸らさない」
「っ。くそっ!」
暫し存在を忘れられていた青年達も意外な参加者に少し驚きながら、それでも自分たちの方が有利だと思い直すと、逃げようとするリプレ達に向かって手を伸ばしてきた。
「ひっひっひ。逃がしゃしねえぜ!」
「あんたジャマっ!!」
しかし、あえなくの一蹴りによってその青年の身体は一瞬宙を舞い、地面に落ち少し転がってから止まる。もちろん、彼に意識はない。
ふーっ、と息を吐きながら上げていた足を降ろし、まだ起きている青年達を見る。
「そんじゃま、一暴れしますか」
「お前の一暴れってどれくらいだっ!?」
ガゼルの少し青ざめた叫びを皮切りとして、喧嘩は始まった。
後書き
後書きで初めまして。とりあえず管理人です。
ナツキ(活発主デフォルト名)の名前、しくりましたねやっぱり。
ナツミと被りました。気付いたけど直しません。気分です。
その時々の気分なのです。
その代わり戦闘やら何やらではナツミより多く出張るでしょう。だって主人公。
変換されている方には全く関係ない話ですが。
それでは10話の後書きでまた会いましょう(後書いてねーじゃん)