メモのお陰なのか、案外あっさりと私は学校に着くことが出来た。
 そして学校に行って解ったことが幾つかある。
 どうやら私はダメツナならぬらしいコト。これも設定効果かコンチクショー。
 私が男装している女子だと言うことは全教師とクラスメイトの周知の事実だというコト。
 同じクラスの山本武が女子に人気なコト。結構格好いい。
 同じクラスの笹川京子が男子に人気なコト。とても可愛い。
 そんな笹川京子の友達である黒川花がさばさばして付き合いやすそうなコト。大人っぽい。
 後、私が受ける授業は男子の授業だというコト。流石に保険は違うらしいのだけど。
 だから今日行われた体育では、ジャージを着込んだ私は男子に混じってバスケをしていた。
 やる気がないから、とりあえずパスを貰わないようなみそっかすの位置でぼーっとしておくことにする。だって男子のパスって鋭そうだし。
 体育の授業の終わり頃、だっただろうか。
、パス行ったぞ!」
 声と共にバスケットボールが顔目掛けて飛んでくる。生憎ボールの動きを見ていなかったから不意打ちにしかならなかった。
 べしぃっ、とボールは私の顔面真っ正面に当たる。…………結構痛い。ていうかメチャクチャ痛い。
 顔を押さえて蹲る私を尻目に、クラスメイトはボールを拾ってバスケの続きをやり始める。
 なんて言うか、途轍もなく酷いと思う。だって少なくともクラスメイトは私が女子だって知ってるんだよ? なのにこの仕打ちですか。
 普通さ、女子の顔にボール当てたら謝ると思うんだ。それとも何、私は既に女子ではないと?
 確かに男装してるさ、ああしてるさ。でもでも、好きでしてるんじゃないやい!
 そんなこんなで授業は終わったらしく、負けたチーム、つまり私がいたチームに罰ゲームとして居残り掃除が申しつけられた。
 ただし、昼休みの間にやるというもの。放課後とかではない。
「お前の所為で負けたんだからな!」
 男子の一人が声を荒げて言ってくる。
 うんそうだね、失点の内一点は私の所為だね。
 でもね、いきなりパスする方も悪いし、それに何より私、それ以外ではボールに触ってませんから。私の所為ってのは些か強引だよ。
 私が何も言わないでいると、どうやら申し訳ないと思ってると感じたらしく、ニヤリとした笑みを浮かべる。
 あ、悪い予感が。
「と、ゆーことで居残り掃除、よろしく」
 言うだけ言うとさっさと他の男子と共に去っていってしまった。逃げ足だけは速い。
「こういう掃除ってみんなでやれば早く終わるのに」
 呟くと、仕方ないから私は掃除を開始しようとする。
 と、そこへ担任がやってきた。
「ああ、。ここにいたのか」
 どうやら私を捜していたらしい。何事かと思って首を傾げつつ担任を見た。
「お前のお袋さんから電話があってな。急用が出来たそうで早退しろだと」
「はぁ……」
 曖昧に返事を返しつつ、私は思いきり頭を抱えたくなった。
 担任使って娘を早退させてまでリボーンに早く会いたいのか、お母さんは!
 非常識にも程があるっての! ああもう誰か常識人をください!
 しかしそんな私がこれから会わなきゃいけないのは、常識人とはほど遠いアルコバレーノと呼ばれる、マフィア界最強の赤ん坊。それから逃れる術はない。
 あったとしてもきっと、常人には出来ない方法だろうね。私とかには出来ない方法だろうね!
 担任に教えてくれたお礼を言い、私は掃除用具を用具入れに仕舞うと担任がついでに持ってきてくれていた鞄を持って更衣室へ向かう。
 そこで制服に着替えて鞄片手に校門の方へ。っていうか、風紀委員が居そうで怖いんですけど。
 まだ草壁さんなら大丈夫そうだけどさ。風紀委員の良心って感じだし。
 こそこそと校庭を横切り、なんとか風紀委員と未接触で通学路を通り、家へと帰り着いた。
 なんて言うか、私にしてみれば登校(というより転校)初日で早退(という名のサボり。これ決定)をするってのは些か居心地が悪い。
 これがまだちゃんと春から通ってる中学だったら少しは違ってきたんだろうけど。
「ただいまー」
 玄関を開けつつ声を掛ければ、ちょこんとある小さな靴。
 まさか、もう来てる?
 リビングへ向かえば、お母さんと談笑してるように見えるスーツ姿の赤ん坊。頭に被った帽子にカメレオンを乗せている。
 間違いない、リボーンだ。
 思っていたよりも早く来ていたらしい。っていうか、なんであんな仲良さそうに談笑してるわけ?
「あら、。お帰り」
 私に気付いたお母さんがにっこり微笑みながら声を掛けてきた。
 それと同時か少し早いか、リボーンが私の顔を見た。じっと見て、ついっと下げた帽子の鍔で顔を隠す。なんて言うか、失礼な。
「こちら、家庭教師をしてくれる」
「リボーンだぞ」
「…………家庭教師なんて、いらないって」
 溜息を吐きつつテーブルに近付き、椅子を引いて座る。とりあえず第一関門突破……かな?
 ツナのようには行かないまでも、なんとか物語を進められそうだ。とりあえず一安心しておくことにする。
「家庭教師は必要だぞ。なんたってお前にはこれから立派なボンゴレファミリーの十代目ボスになって貰うんだからな」
「はいぃ?」
 ちょっと待ってくださいリボーンさん。そういうのって普通、お母さんの前で言わないでしょ? ツナと二人っきりの時言ってましたよね? え、私だけ特別ですか?(そんな特別いらないけれど)
 というか、相変わらず私の顔を見てくれない。
「あのさ、リボーン? 私の顔に何か付いてる? その所為で見てくれないわけ?」
 思い切って尋ねてみれば(そういえば呼び捨てにしてしまった。まあいいか)、リボーンは漸く鍔を上げて私を見てくれた。
「顔のパーツ以外付いてねーぞ」
「顔のパーツ付いてなかったらちょっと困る」
 真顔で言えば、少しだけ呆れられたような雰囲気が伝わってきた。
 なんて言えばいいかな、ここは笑うところか突っ込むところだと言われているような感じだ。いや、実際そう言いたいんだろうけれど。
「…………とりあえず一発撃っとくか?」
「んなっ!」
 いきなりですかーっ!?
 確かに原作ではそう言ってたけどさーっ! こうもいきなり、しかもお母さんの前ですよ!?
 信じられない非常識すぎるっての!
 確かに日常にグッバイしたけどさ! でもやっぱりまだ日常と離れたくないわっ!(ああなんか凄く混乱してる)
「撃たれたくないよ! 死にたくないし」
「安心しろ、今撃っても意味はねーからな。無駄弾は撃たないんだ」
 わお、格好いい。って違う違う。
 よかった、撃たれなくて。そう思うとこだよね今は。
 それに危なく雲雀さんの口癖になるとこだったよ。イントネーションちょっと違ったからよかったけど。
「とりあえずリボーン君。お昼食べるでしょう? 何がいいかしら」
「なんでもいーぞ」
 ああ、軽くスルーしてるよ、お母さん。強者だよねぇ。
 まあこれで強者じゃなかったらお母さんじゃないって感じだけどさ。だって異世界(しかも『REBORN!』の世界)に来ちゃってもマイペースを崩さないし。
 寧ろお母さんの所為で来てるんだけどね(共犯者はお父さん。これ決定)。
 お昼の準備を始めるお母さんの後ろ姿を見て、私は軽く溜息を吐くと階段へ。流石に制服のままではいたくない。
 あれ、でもこの後ツナは京子ちゃんに告白するんだっけ。制服で。いや、死ぬ気弾で脱げるけど。
 私はお母さんのお陰で脱げないんだけどさ(ああホントそこだけは感謝だよお母さん)。
 …………着てなきゃ駄目、かなぁ。
「とりあえず、手を洗ってらっしゃい」
「はぁーい」
 階段を上ろうとしていた足を降ろし、洗面所へ。手を洗ってうがいをして、とりあえず首に巻いたネクタイを緩めておく。
 ネクタイって疲れると思う。首周りにあるのなんて襟だけで充分だと思う。……そう思うのは多分私だけだとも、思う。
 でも実際夏はきっちり締めたくないでしょ。だらしなくていいですか? って言いたい。寧ろだらしなくしてやる、明日から。
 リビングに戻ると、テーブルの上にあったチラシに目が止まる。
 新しくできたケーキバイキングのチラシらしい。『開店記念・ご来店二人以上のお客様ケーキ食べ放題』……。
 行くっきゃないよね、うん!
 あ、でも誘うべき友達がこっちの世界ではいないんだけど…………。
 京子ちゃんとハルはケーキ好きなんだけど、京子ちゃんとはまともに話してないしハルなんてまだ存在自体知らない時期だし。
 し、四面楚歌…………?(使い方が違うと思うけどスルーだ)
「はい、お昼出来たわよ」
 お母さんの言葉に早いな、と思いながら私はお昼ご飯を受け取る。炒飯だった。


























 ご飯を食べ終えて、私はどうしようかととりあえず財布を片手に家を出た。
 結局着替えるのが面倒くさくなって制服のまま。
 とりあえずここら辺の地理を頭に叩き込まないといけない。財布はあれだ、軍資金。食べ歩きのための。
「で、どうして付いてくるのさ」
「お前を立派なボスにするためだぞ」
「ボスなんてなりたくないっての」
 いやもうホントに。ボスなんてお断りですから。
 そう答えながら曲がり角を曲がった瞬間、向こうから歩いてきた京子ちゃんに気付く。
「はわわっ」
 思わず曲がり角で身を隠してしまった。や、だってさ、サボったんだよ?
 絶対京子ちゃん知ってるから、どうしたの? なんて聞かれそうじゃないか!
 …………ああでも、ここで会話して仲良くなって、一緒にケーキ屋に行って貰えば……でもどう話せば仲良くなれるのさ!
 とか思っていたら、何気ない風にリボーンが話してるし。げ、原作通り……!
 あれ、って事は私、もうすぐ撃たれる?
 京子ちゃんが去って、ニヤリと笑う(ように見える。ていうか笑ってる)リボーンが私に銃を向けた。
 確か、チェコ製のCZ75の初期型……(とか漫画に書いてあった気がする)。
、あの女に言いたいことがあるだろ」
「…………え?」
 言いたいこと……って、ケーキ屋に一緒に行って欲しいって言うこと?
「あ、あるけどさ。駄目だよ、話したことないから」
 だって今日が初登校だよ? 話せるわけ無いでしょうが。
 しかも私男子に混じってなきゃ駄目だし(これが一番の問題なんだよ)。
「なら今話してこい」
「無理だよ、相手にされないよ」
「やってみなきゃわからねーだろ」
 死ぬ気で話してこい。
 そう言うが早いか、リボーンの銃が火を吹いた。ズガン、という発砲音が耳に響く。




















 黒い服と全身を包む温かい温もりと紅い色が見えた、気がした。








面白かったら猫を一押し!