九月二十日です。しっかりと秋ですね。
 秋といえば体育祭の季節ですね。
 運動音痴の私としてみれば、ずっと来て欲しくないイベントだけれど…………でも学校行事だからよほどのことがない限り必ず行われてしまうわけで。
 どうしてもこの時期、憂鬱になってしまったりする。まあ原因はそれだけではないのだけれど。
 何故秋という季節は全員で一つのことをするイベントごとが多いのだろう。お陰で小学生の頃は殆ど友達のいなかった私にとって、苦痛の季節でしかなかった。…………今回は、友達沢山出来たからそう言うことにはならないけど。
 でもやっぱりちょっと嫌だったりする。今週の月曜日に持田先輩と戦うための準備を私がしている間も、体育祭の準備は着々と進められていたのだ。
 つまり私、殆ど体育祭準備、手伝っていなかったりする。クラスのみんなに恨まれ疎まれても仕方ないよ、ね。
「どうかしましたか、十代目」
「ううん、なんでもないよ」
 大きな溜息を吐いたところ、隣にいた獄寺君に心配されてしまった。
 あーあ、やっちゃった。心配掛けるのって嫌なんだけどなぁ。
「やっぱ、持田先輩と戦った疲れが抜けてねーんじゃねーの?」
「そうッスよ。こんなかったるい場所抜け出して休んだ方がいいですって」
「いや、全っ然平気だからっ」
 山本も心配してくれるんだけど…………持田先輩との戦いで疲れが、ってわけじゃないんだよ。だって間、何日空いたと思ってるの。
 私の溜息の原因はたった一つ。体育祭だ。
 運動音痴にしてみれば、思いっきり恥を晒す場である。わあい。
「『極限必勝』! これが明日の体育祭での我々A組のスローガンだ! 勝たなければ意味がない!」
 前で演説している笹川先輩が熱い。燃えている。流石に体育会系なだけある。
 ボーッとしながら聞いていると、突然私の方に視線が集まった。
 見れば、演説していたはずの笹川先輩が私を指さしている。
「…………へっ?」
「1−A、! 奴こそがオレよりも総大将に相応しい!」
「んなーっ!?」
 ちょ、え、待ってください! なんの話ですか!?
 ああいや、覚えがあるぞ。確かこれは…………。
「組の総大将が棒倒しの総大将になるのが習わしだが、オレは兵士として戦いたい! それにほど総大将に相応しい男はいない!」
 そう、ツナが――――――――つまりその位置にいる私が、総大将として指名され、結局押し切られて総大将に決定してしまう話、だ。
 ………………………………………………ん?
「ちょっと待てーッ! 私は女だーッ!」
 だぁん、と長机を叩いて私は立ち上がる。ツッコミどころが違うとでも何とでも言うがいい。けれど私にとって、これは譲れない。男子の格好して男子の授業を受けているからって、性別は女なのだ。男と言われて黙っていられるわけがない。
「そんな些細なことはどうでもいい!」
「どうでもよくないッ!」
「賛成の者は手を上げてくれ!」
「シカトーッ!?」
 うわぁん、ここにも我が道を突き進む人間が!
 けれどまぁ、もちろんのこと誰も上げる人間はいない。そりゃそうだ、私みたいな一年に総大将なんて任せたくないよね、うん。
 ホッとしたのも束の間、獄寺君が後ろの長机に片足を勢いよく乗せてクラスのみんなを睨んだ。
「ウチのクラスに反対の奴なんていねーよな」
 …………すみません、それ、疑問系じゃないですよね。思いっきり断定だよね。手も上げちゃってるし。その隣でちゃっかり山本も手を上げてるし。
 男子は獄寺君の睨みに恐怖し、女子は獄寺君と山本が上げているから、ということでウチのクラスは全員挙手。
 それを見て、よしっ、なんて満足そうに笹川先輩は頷いた。
「この勢いならいずれ過半数だろう。決定! 棒倒し大将はだ!」
 ああ、やっぱりそうそう流れは変わらないのか…………。
 がっくりと肩を落とすと、心配そうに京子ちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫? ちゃん」
「………………多分」
「ごめんね、お兄ちゃんが」
「でもま、今更変えられそうもないわね。あの人、頑固だし」
 花に最後通告を突き付けられた。うぅ、そうなんだよねぇ…………。
 もうこうなったら頑張るしかない、よなぁ。
「頑張ってみるよ…………女だけど」
 先輩方の白い視線を浴びながら溜息を吐き、私はその特別教室を出る。と、目の前の窓に腰掛けたリボーンと目があった。
 ニッ、と口端を上げて笑うリボーンに嫌な予感がする。
「山本、獄寺。を勝たせたいだろ」
 私の後ろに続いていたらしい山本と獄寺君に声を掛けた。ますます嫌な予感。
「ああ」
「もちろんです!」
「なら今から特訓だぞ。お前等先に川原に行け」
 あの、私、了解してないんだけど。
「行きましょう、十代目」
「どんな特訓するんだろーな?」
 ……ああ、キミ達まで無視ですか。いいけどね、うん。
 色々諦めながら獄寺君と山本と三人で並盛川の川原まで行く。暫くすると、棒倒しの棒に見立てた角材とそれにくっついているリボーン、もといパオパオ老師を持って笹川先輩がやってきた。
「ちゃんと揃っているな。これからの特訓をするぞ」
 どん、と角材を川原に立てて支える。そして笹川先輩は私を見て言った。
「よし、、登れ!」
「え゛っ」
 わ、私木登りしたことないんだけど……。今覚えている記憶の中では全く。
 ビアンキの話では出来ていたらしいけれど、昔と今じゃ色々違っているわけだし。
 なんてうだうだ考えていたのが悪かったのか。
「死ぬ気で登れ」
 リボーンに死ぬ気弾を撃たれた。
 死ぬ気出せばなんでも出来る〜、というリョーコちゃんがこの前電話口で口ずさんでいた歌詞とメロディーが蘇る。
 その言葉通り、私はいつもの幻覚を乗り越えて死ぬ気で角材を天辺まで登っていた。わお。
 下の方では笹川先輩と獄寺君が喧嘩を始めている。うん、ヤバイね。
「悪ぃ、! 倒れるぞ!」
 山本の声とほぼ同時、足場であった角材が傾ぐ。傾いだ瞬間に死ぬ気が終わったから、私はそのまま角材と共に川の中へ。
 幾ら九月とはいえ、なんの気構えもなく勢いよく川の中に突っ込んだら寒いと思うのは当たり前で。
 でもまず私が思ったのはたった一つのことだった。
「……………………着替え、どうしよ」
 結局携帯でお母さんに連絡を取り、タオルと着替えを持ってきて貰ったのだった。






























 目を開けたら、真っ暗な場所だった。
 直前までベッドに入っていた記憶がある。これが夢だという自覚がある。そして極めつけ、ここに来るのは二度目だった。
 狭間の場所、だ。
 何故ここに来たのかは解らないけれど、直感的に「彼」もここに来るだろうことを知る。
 彼――――――――沢田綱吉。
 と、目の前の暗闇が揺れ、人影が現れる。
「…………やあ」
「…………うん」
 お互い、何を言えばいいかわからずに戸惑う。だって私達はお互いがパラレルワールドの自分であるということを知っているから。
 自分に話しかけるのって、かなり戸惑う。けれどまぁ、これは二度目な訳だから、一応話題はある。
「元気だった? ツナ」
「うん。の方は?」
「周り含め元気」
「ははっ、オレの方もだよ」
 ここまで来れば後は友達に話しかけるのと同じ要領だ。基本、立ち位置は同じだけれど別の人間なのだから。
 ふわり、と暗闇だけだった空間にソファが出来る。私の方に一つ、ツナの方に一つ。
 私は望んでいないから、多分ツナが望んだのだろう。見れば、早速腰掛けているツナがいた。
 同じように腰掛けながら聞く。
「何かあった?」
「うん。…………明日さ、体育祭なんだ」
 あ、地雷踏んだ。
「それでオレ、総大将にされちゃってさ……」
 はぁ、と重い溜息を吐くツナ。その気持ち、よく解る。
「私も明日、体育祭だよ。しかも棒倒しの総大将」
も!?」
「うん」
 お互い顔を見合わせ、盛大に溜息を吐く。倖せが逃げようが何しようが関係ない。溜息が吐きたい気分なのだから。
「やっぱりも了平さんに押し切られたの?」
「……うん」
 やっぱり、と言うことはきっと、ツナもだろう。まぁツナがそうなるのは漫画を見てたから知っているけどさ。
 二人して顔を見合わせ、どうするかなぁ、と呟いた。
 棒倒しって結構危険らしいから、私もツナも怪我をするんだろうな。ああでも、周りが大怪我しないといいけど。笹川先輩とか獄寺君とか雲雀さんとかの所為で。
「明日、サボっちゃおうかなぁ」
「わぁ、それいいアイディア。でも無理そうだよね」
 なんたって黒衣の家庭教師様がいるし。
「そうなんだよなぁ。リボーンが休ませてくれるはずないもんな。なんかパオパオ老師とか言って乗り気だし」
 全く、ホント嫌になっちゃうよ、リボーンの行動は。
 …………そう言えば。
「パオパオ老師と言えばさ、あれ、象だからパオパオなんだよね」
「だと思うけど。すっごい安直だよな」
「私なんてそう思ったら銃口向けられたよ……」
「えっ、大丈夫だった!?」
「大丈夫だから今ここにいますが」
 あはは、なんて空笑いをしながら手をひらひらと振るツナ。
 それにしても、やっぱりツナも安直だって思うんだね。私だけではなかった!
 象だからパオパオ、パオパオだから象、なんて、そりゃ安直以外のなんでもないよね。ついでに言えば、ムエタイはキックボクシングだし。
 …………あれ、確かルッスーリアってムエタイ使いじゃなかったっけ。え、そんなことまで計算に入れてたりするの!? 漫画家って凄い!
「でもってさ、結構肝が据わってるよね」
「え、そう?」
 いきなりのツナの言葉に首を傾げて彼の方を見れば、うん、と力強く頷かれてしまった。
「前にここで初めて会ったとき、凄い落ち着いてただろ? あと銃を向けられた、なんてそんな風に普通に言えないよ」
 落ち着いて、いたのだろうか。
 ここが何処か何故か解っていたから多分、表面的にそう見えたのだろうとは思う。でも内心はかなり混乱していたはずだ、私は。
 ……ああ、ツナを見て混乱が吹っ飛んだのか。私が「ボンゴレ十代目」である時点で会うはずがない、「ボンゴレ十代目・沢田綱吉」をこの目でしっかりと見てしまって。
 でも銃の方は心外だ。
「だってもうリボーンで結構慣れちゃったよ。銃口向けられるの」
「慣れちゃ駄目だからっ!」
 そう言われても、こればっかりはどうしようもないのだ。だって日常の一部になってきてしまっている。近くに最強ヒットマンがいるということが。…………慣れたくなかったなぁ、こんな生活。一般人でいたかった。
 肩を軽く竦めつつ、ソファにもたれ掛かって暗闇を見上げる。
「リボーンの銃口なんて嫌でも慣れるよ、ツナだってそのうち」
「慣れたくねーっ!」
「だって私達、スパルタ教師であるリボーンの教え子じゃん。銃口ぐらい慣れないとやってけないよー」
「…………もしかして、投げ遣りになってる?」
「かなり」
 頷き、私はツナへと視線を戻す。
 なんだか少しずつ意識が沈んでいっている、のだ。こうしてツナと喋っているの、楽しいのに億劫で。
「……なんか、起きてられない、かも」
「この状態って、起きてるって言えるのかな…………。………………あれ、そういえばも川に突っ込んじゃったりしたの?」
「…………………………………………うん」
 あれ、ツナの声が遠く聞こえる……。
 ああ駄目だ、狭間の場所からも落ちるほどに意識が重いみたい。
「じゃあ、それってもしか、…………………………」
 ツナの声が途切れたと思うと同時、私の意識は深く深く沈み込んでいった。
 次にツナにあったら今日のこと、謝らないと。








面白かったら猫を一押し!