結局、あの出血は暫く瞳から消えていた特徴が戻ってきた副作用だったようで、あのあと医者に行っても異常なしで帰された。
 流石に目薬だけは出して貰えたのだけれど。
 ちなみに一昨日のお母さんの電撃告白は既にリョーコちゃんに報告済みだ。そうしたら「あんたの血、輸血して貰うんだった!」なんてメールで返ってきたけれど(というかどうしてメールや電話が通じるんだろう。異世界なのに)。
 そう、あの電撃告白は一昨日なのだ。
 やはりというかなんというか、過保護なお母さんは念のためにという名目で(おそらくは私に特徴が戻ったのが心配なのだ。出血よりも)学校を休ませた。
 それ故に今日は土曜日。学校のない休日である。
 だからこそ、私はちょっと焦っていたりする。
「…………どうしよう、昨日一昨日の勉強が解らない……」
 今一番の問題はそこなのだ。早退と休みのお陰で私は一昨日と昨日の二日間、授業を受けていない。
 勉強を侮る無かれ。一日二日の休みでついていけなくなる事もままあるのだ。
「尚更馬鹿になっちゃう……!」
 部屋で一人頭を抱えてローテーブルに突っ伏してみる。
 ただでさえテストで悪い点を取っているのに二日も休んだら終わりだろ、私の頭じゃ!
「そんなこったろーと思って借りてきてやったぞ」
 突然部屋のドアが開く。
 驚いて見れば廊下に立つリボーンの姿が眼に入った。その手にはノートを何冊か持っている。
「借りて……?」
「そうだぞ。京子から借りてきてやった」
「京子ちゃんから!?」
 うわー、うわー。凄く嬉しいんだけど。
 京子ちゃんのことだから絶対ちゃんとノート取ってるだろうし、それを見てリボーンに教えて貰えばなんとか……!
「リボーン、勉強しよう!」
「やる気になったな」
 ニッと笑うリボーンは多分こうなることを予測していたんだろう。
 とりあえずそれは置いておいて、ノートと筆記用具、教科書を引っ張り出した。
「二日分かー。……土日だから何とかなるかな」
 これで日曜だったら悲惨だもん。
 ホントリボーン大明神様のお陰だね。
 ルンルン気分で準備を終えた私は、リボーンから借りてきて貰ったノートを受け取る。私にノートを渡したリボーンはもちろん、ローテーブルの向かい側に座った。
「それじゃあ始めるぞ」
「お願いします」
 京子ちゃんのノートと教科書を見て必要な要点だけをノートに書き写し、リボーンがたまに出す問を解くと言う作業を繰り返すこと三十分。
 リボーンが私をじっと見ていた。
「……? 何?」
「お前、勉強が苦じゃねーのか?」
「うーん、嫌いではないなぁ。知ることは楽しいことだし」
「そうか。…………の割にはテストは散々だな」
 ふぅ、と溜息混じりに今までのテスト(向こうの世界で受けていたものだ)を取り出す。
 ……ちょっと待て。
「なんでリボーンがそれを持ってるの……?」
が貸してくれたんだぞ」
 お母さん!
 そんなもんすぐに処分して! ただの恥だから!
 がっくりと項垂れていると、リボーンがニヤリとした笑みを浮かべた。
「前の理科のテストの時見ていて気付いたんだが、お前、テスト中に寝てやがるな」
「あ、うん。なんかこう、眠気がすぐ襲ってきて、抗えなくて」
「…………それがテストの点数が悪ぃ原因だろうな」
 リボーンの言葉に首を傾げると、わからねぇのか、と呆れられる。
「お前は教えれば憶えるし、応用問題も少し時間を掛ければ解けるんだぞ」
「リボーンの教え方がいいんじゃなくて?」
「それもある」
 うっわナルシスト!?
 でも確かに解りやすいのだ、リボーンの説明は。
 特に根津のと比べると涙が出るほどに。……ああ、根津なんかと比べるのはリボーンに失礼だったな。
「今度からはどんどんと予習をしていくぞ。今日はとりあえずこの二日間の理解からだがな」
「はーい」
 予習をすれば、少しは成績よくなるかな。
 なんて思いながら、私はノートにペンを走らせた。
 ………………走らせようと、した。
 ふと視界に入った窓にある牛柄を認めるまでは。
ね、リボーン!」
 牛柄もじゃもじゃヘッドの子供。それが黒光りする銃を構えて部屋の外、窓の近くの木の枝にいた。
 よくあんな所まで登れたものだと思う。流石ヒットマンを自称するだけあるなぁ。
 ってそうじゃなくて!
「……リボーン、あれ」
「気にすんじゃねーぞ」
 ぼきりと折れた枝ごと落ちていった牛柄を横目で追いつつリボーンに言えば、大層クールに返してくださいました。
 言われた通り勉強に集中したいところだけど、流石に気になる。
 何せ相手は子供なのだ(普通じゃないだろうけれど)。
 暫くしてチャイムの連打が聞こえてくる。それから階段を走って登ってくる軽い足音。
 勢いよく扉を開けたのは、先程の牛柄の子供だった。
「久しぶりだなリボーン! オレっちだよ、ランボだよ!」
「う、わぁ……」
 濃いというか、ウザイというか。
 遠い目をしていたらリボーンに片手間であしらわれたランボが自己紹介をし始める。その一生懸命さがなんとも哀愁を誘う…………のかもしれない。
「オイ、。あんなの無視してこの問題を解いてみろ」
「あ、うん。……応用だね、先刻の」
「そうだぞ」
 難しい応用問題を出され、私の意識がランボから問題へと移る。
 解いている間もランボのいじましい努力が続けられ。
 ランボが取り出して自分で投げた手榴弾によって吹っ飛び、爆発したのと同時に応用問題が解けた。
「ふぅ、解けた〜。…………で、リボーン。あれ、知り合いじゃないの?」
「あんな奴知らねーぞ。それにオレは格下は相手にしねーんだ」
 相変わらずリボーンは格好いいことを言ってくださいます。
 でもそのとばっちりに私を巻き込まないで欲しいなぁ、なんて。
ー! お昼作るからランボ君の面倒見てくれるー?」
「……はぁーい」
 ってかもう既にランボと仲良しかよお母さん!


























 なんとか外でランボを泣きやませて(なんだか懐かれてしまったんだけど)家へ戻ると、お昼はスパゲッティだった。
 ミートソースかボロネーゼかは私には判断が付かないけれど。
 確かボロネーゼの方がミートソースより挽肉が多いとか言う話だったよね。
「……仲良く食べなよ?」
 主にランボに向かって言う。
 だってリボーンからは手出ししてないし。ランボからだし。
 寧ろリボーンは正当防衛だ。私が証言してもいい……と思う。
 なんてスパゲッティを食べていたら懲りずにナイフを投げつけるランボ。もちろんフォークで跳ね返されて頭に刺さる。
「って刺さってるーっ!」
 ぬ、抜くべきか!? それとも抜かざるべきか!?
 って抜くべきに決まってるよ私! 何パニックになってるの!
「ら、ランボ……」
 ナイフを抜こうと手を伸ばせば、その手の先で十年バズーカを使うランボ。
 爆音と共に現れた煙でランボの姿は隠れ、暫くして薄れた煙の中から現れたのは。
「ふーやれやれ。どうやら十年バズーカで十年前に呼び出されちまったみてーだな」
 すっかり大人びた十年後のランボだった。
 ぽかぁん、と見ていれば、大人ランボが私に気付く。
「……! あなたは若きボンゴレ十代目!」
 え、あの、なんでそんなに顔を輝かせておられるのですか。
「十年前の自分が世話になってます、泣き虫だったランボです」
 こちらに駆け寄ってきて私の手を握る大人ランボ。
 とりあえず、実はまだまだ泣き虫な大人ランボはこれからまたリボーンに泣かされるんだろう。
 そう思うと不憫に思えてくるから不思議だなぁ。
「ああ、それにしてもあなたは十年前から変わらず……」
「え、私って十年経っても身長も顔もこのまま!?」
 ショックだ、激しくショックだ。
 そりゃあ昔の写真と見比べても殆ど変わっていない、悪くて十代後半、よくて二十代前半にしか見えないお母さんの遺伝子があるから、年を取っても若く見られるんだろうな、とは思っていた。
 けどだからって! 十年経っても同じだなんて!
 特に身長が! もうちょっと欲しいんですけど!?
「いえ、流石に幼さは少し薄れましたよ?」
「少しかよっ!」
 フォローするならちゃんとフォローしろよ! 少しってなんだ少しって!
 兎に角十年経ってもこのままだなんて!
 ショックに沈んでいると、ランボがリボーンに気付いたようで、私の手を離した。
「よぉ、リボーン。みちがえちゃっただろ? オレがお前にシカトされ続けたランボだよ」
 未だ我関せずといった調子で食事を続けるリボーンに向かってランボは言う。
 でもね、ランボ。攻撃を仕掛けちゃ駄目だと思うんだ。幾ら相手がシカトしたからって……。
「こうなりゃ実力行使しかねーな。十年間でオレがどれだけ変わったか見せてやる」
 いや変わってませんから。シカトされて攻撃仕掛ける所なんてまるっきり変わってませんから。
 懲りないんだねぇ、ランボって。ああいや、学習しないのか。
「サンダーセット」
 オレのツノは百万ボルトだ、ってか?
 さりげなく私は大人ランボからもリボーンからも距離を取る。
 巻き込まれることはないだろうけれど、でもねぇ? 何があるか解らないし。
「死ね、リボーン! 電撃角エレットゥリコ・コルナータ!」
 さくり。
 効果音はそれで決定といった感じでリボーンが持っていたフォークが大人ランボの頭に刺さる。
「…………が・ま・ん」
 必死に我慢しようとしていた大人ランボが我慢しきれずに泣きながら飛び出していった。
 そう言えば大人ランボって、実は十五歳なんだよね。私と三歳しか違わないんだから仕方ない、のかな?
 ……リボーンって情け容赦ないしね。
 お母さんに宥められて戻ってきたランボが懲りずにリボーンへ喧嘩を売り、また泣かされたのは……まぁ気にしないで置こう。
 後で葡萄ぶどう飴、沢山買って来なきゃなぁ。








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