風に乗って歌声が途切れ途切れに聞こえた。




If you go in the dark, let's become a moonlight that shines on the dark.
 I renege and I will walk when you lose your way in strong light.

 Wishing is only small thing.
 Praying is only trifling thing.
 So that you may live happily.

 I want to become a moonlight that shines on the your road.




 微かな旋律。聞いたことのない言葉。
 歌っている声は聞いたことがある。仲間の物だ。だからためらいなく近づいて声を掛けた。
。何歌ってるの?」
「……ルーティ」
 顔を赤らめて恥ずかしそうに俯くに苦笑して、あたしはの隣に立つ。
「聞いたことのない歌なのよねー。と、言うか言葉? んー、なんて言う歌なのよ?」
「あ、私の世界の歌。題名とか忘れたんだけど……何処かで聞いてて、何となく憶えてるの」
「ふぅん」
 そう言ってからあたしは手摺りに腕を付き、海を見る。
 カルバレイスに向かう船はもうすぐ魔の暗礁に差し掛かる。こうやって甲板に出てきたのは見張りのためなんだけど。
 見渡す限り海! 他に見えるのは空と船体のみ!
 …………正直長居したくないわね。
、海を見ていて飽きない?』
「飽きないけど」
「羨ましいわー。あたし飽きちゃった」
『ルーティは飽きるのが早すぎるわよ?』
 はぁ、とアトワイトが溜息を吐く。
 何よ、と呟いてから海と空を見る。どっちも蒼。蒼、と言えば。
「ねぇ、。そのペンダントって意味があるの?」
「え。……ああ、これ?」
 がこの世界に来てからずっと掛けているペンダント。そのペンダントに付いている蒼い石は、が現れたときの蝶の色とよく似ていると思う。
 石に触りながらは虚空を見つめる。
 あたしもそれにつられて空を見上げてみた。
「…………解らない」
 その言葉に、手摺りに付いていた腕が滑り、危うく顎を打つところだった。
 だって自分で付けてるのよ? なのに解らないって何よ。
 怪訝そうな顔をいつの間にかしていたらしく、苦笑される。
「えっと、ね? 元の世界ではこれ、持ってなかったんだけど……こっちに来たらあったから。大事な物かな、と思って」
 だから肌身離さず着けてるの。
 そう言ってあたしからもう一度空へと視線を戻す。
 なんだか、今のは怖い。
 いつの間にか隣からいなくなっていそうで、怖くなる。
 やっぱりそれは、が異世界から来た人間だから? だからあたしはそう思うのかしら? でも普段はそんなこと、思わないのに。
 ただが空を見つめているだけで怖くなる。しっかり掴んでおかないと、消えてしまいそうで。遠くへ行ってしまいそうで。
 …………どうしてこう思うのか、あたしには解らない。でもやっぱり仲間だから、無茶しようとした瞬間に腕を掴んで引き留めないと。消えるとか消えないとか、関係なく。
 ストレイライズ神殿での八つ当たり攻撃は見事だったけど、ああいう風に突っ込んでいくのはスカタンだけで十分よね。
 の隣でそう決意してから、あたしはとりあえずの手を掴む。
「何時までも潮風に当たってると髪とか肌が傷むわよ? さ、船室に行きましょ」
「え、でもルーティは見張りに来たんじゃあ…………」
「こんな退屈な仕事やってられないしね」
 ウィンクしつつ言うと、は苦笑する。
 孤児院の子じゃない、仲間でもある妹が出来たような気がして、あたしはの手を掴んだままで船室へと入っていった。

























 船室には生意気なくそガキとスカタン、マリーにフィリアと全員集合していた。
 別にくそガキはいなくてよかったんだけどねっ。
「ルーティ、見張りに行ったんじゃないのか?」
 スタンが立ち上がって聞いてきたのであたしは両手を挙げる。
「あーんな退屈な仕事、あたし嫌よ。それにが先刻までずっと外にいたからね。船室に連れ戻したの」
「そうなんですか?」
 フィリアがそう言っての方を見る。
 曖昧に微笑みつつ頷くのを隣で見て、あたしは溜息を吐いた。
 絶対あたしが引っ張ってこなかったら、船室に入らなかったわね。
「ルーティ、見張りは私がやろう」
「悪いわね、マリー」
 立ち上がり、こっちに歩いてきたマリーと言葉を交わし、あたしはの手を引いて先刻までマリーが座っていた椅子に座らせ、手頃な位置にあった椅子を引き寄せて座る。
 スタンとフィリアまでも近づいてきて、あたしは内心苦笑した。
 どうやら新しい妹は人気者らしい。
さん、手が冷たいですよ。外にいすぎたんじゃないですか?」
「そうかな。……うーん、どれぐらい外にいたんだろう」
「え、解らないの?」
「…………うん」
「呆れたわね。もうちょっと自分を大事にしなさいよ」
「今度から気をつけます……」
 しゅんと項垂れたは手を置いたスカートを弄り始める。
「女の子なんだからそう言うことはしない!」
「はぅぅ……。リョーコちゃんと同じ事を…………」
「リョーコ?」
「友達の名前です」
 どうやら元の世界の友達にも同じ事を言われたみたいね。
 手を動かすのを止めると、今度は視線が彷徨い始める。じっとしてるって事を知らないのかしら。まああたしが言う事じゃないけど。
 彷徨っていたの視線が一点に止まる。ついでに眉を寄せて顰めっ面をしている。どうしてそう言う表情をするのよ、可愛いのに。
「みんな、出たぞ」
 扉が急に開いて、嬉しそうなマリーが入ってくる。
 ホント、戦いのことになると生き生きするのよねぇ……。
 あたし達は立ち上がると、急いで甲板の方へと駆けていった。
 船が沈んだら困るしね。