怪我が治ってさあ頑張るぞ!…………とはお世辞にも言えない月曜日。
 もちろん完治にはまだ遠い。と、いうか、一日や二日で治るってどんな自己治癒力だ。人間じゃないだろうと問いつめたいぐらいだ。
 だから私は至って一般人である。抜糸だってまだ済んでない。そのお陰で。
「ああ、学校休めるって嬉しいような、悲しいような……!」
 こんな複雑な気分を味わっております。
 学校を休みたいって思うときはたまにある。たまにあるが、でも休むと勉強に付いていけないんだよ。だって私、だもん。
 溜息を吐きつつ、でもどうしようもないよなぁ、なんて諦めていると、こんな月曜の昼間っからインターホンが鳴った。
 生憎、ただいま私以外の皆様留守中です。ビアンキは私に精の付くものを食べさせようと、お母さんと一緒に買い物に。ランボは多分何処かの公園へ。リボーンは…………私が頼んで、獄寺君が暴走しないように見に行って貰っている。
 かくいう私は、お母様から絶対安静を言われております。
 病院から退院させた癖にっ! 絶対安静なら病院で静かに過ごさせてよっ!……きっと、淋しくなったとは思うけどさ。
 仕方ないので、お母さんの言いつけを破って玄関まで向かう。これで殺し屋だったらどうしよう(あれ、こんな事一般人考えないよね)。
 扉を開けると、目に飛び込んでくる蒼髪。染めるかカツラを被らない限り、こんな色は普通出ないだろうという色。そして銀の瞳。ちょっと奇抜な、何処ぞのRPGから来たんですか、と言いたくなるような服装。
「や、ちゃん」
「……………………え、くるるさん?」
 私が小学時代を過ごした世界で、男子唯一の友達だった遥那はるかなはるか君の従姉が、そこにいた。






























 とりあえずくるるさんを中に通してお茶の準備をする。
「ホントごめんね、いきなりで。ぼくはちゃんと事前連絡入れたかったんだけど、サプライズにしたいって言われちゃって」
 誰にだ。
 くるるさんが話すのを聞きながら、私は手を止めずにお茶を入れ、彼女の前に置く。
 いやまぁ、誰がそう言ったのかは解る。十中八九リョーコちゃんだろう。ただ、認めたくないというか認められないというか。だって彼女は、前いた世界にいたはずなのだから。
「…………あの、くるるさん」
「ん、なんだい?」
 軽い口調で返してくれる彼女に、聞いてもいいのだろうか、と思う。
 私自身、別の世界から来ました、と言うことになっても、どうやって、と言うことが出来ない。彼女もそうだとしたら、聞いてはいけないのではないだろうか。
 等と思案していると、くるるさんはケラケラと笑い出した。
「そりゃあ普通はびっくりだよね、よくわかるよ。異世界に行ったと思ったら、前の世界にいた人が現れるんだもん。驚かない方がオカシイよ、普通の人なら」
 くるるさんの言葉に、思わずきょとん、としてしまった。
 何故こうも明るく話せるのだろうか。…………まさか、開き直っちゃってるとか? あり得るよなぁ、普通はこんな経験しないし。
 なんて考えていると、くるるさんは爆弾発言を投下してくださった。
















「でも安心して。遥那家の人間は異世界移動出来ちゃう一族の血を引いてるから」
















 …………………………………………What?
 思わず思考回路が真っ白になってアルファベット四つが飛び出してきてしまったけれど、くるるさんは今なんと言った?
 いや、解っている。何が聞こえたのかなんて解っているさ! でも現実逃避させてください。だって誰が想像した。「遥那家の人間は異世界移動出来ちゃう一族の血を引いてる」なんて言葉を! 想像なんて欠片もしてなかったさ!
 でも同時に納得してもいるのだ。だって普通あり得ない。前の世界の人間であるくるるさんが、今ここで私の目の前にいるなんてことは。
 現実と逃避の間を彷徨いながら、私はくるるさんを見る。彼女は私の視線などものともせずにお茶を飲んでいた。
「くるるさん…………現実逃避していいですか」
「ははは、駄目に決まってるだろ」
 爽やか笑顔で言われても。
 ちょっと泣きたくなってきたけれど、蒔いた種蒔いた種、と自分を納得させる。現実逃避していいかと聞かれて、どうぞ、なんて答える人はいないだろう。
 ああ駄目だ、かなり思考回路が支離滅裂だ。
 自分が情けなくなりながらもくるるさんの行動を待っていると、彼女はどこからともなく三つの箱を取り出した。どれも綺麗にラッピングされている。
「さて、世間話はここまでにして」
 …………え、今のどこが世間話?
 いや、突っ込むな、突っ込むんじゃない、自分。落ち着け、落ち着くんだ、私。突っ込んだら負けだ!………………何に負けるのかは解らないけれど。
「悠やリョーコちゃん、綾香ちゃんから預かってきた誕生日プレゼントだよ」
 そしてこれはぼくからだ。
 そう言って渡された四つのプレゼントは、とても暖かく感じて。
 この世界で仲良くなった人たちから貰ったプレゼントももちろん嬉しくて暖かかったのだけれど。
 やっぱりどこにいても友達は友達なのだ、と再確認出来て、思わず視界が歪んでしまった。
「あ、りがとう、ございます…………」
 歪んだ視界の向こう、くるるさんは微笑んでくれた。
 許可を貰ってすぐにプレゼントを開ける。何が入っているんだろう、リボーングッズなんてチョイス、していないよな、なんて考えながら。
 かさり、と包装紙が音を立てて外れ、包まれていた物が顔を見せる。
 まず最初に開けたのは悠君からのプレゼント。中身はファンタジー小説だった。これはこちらの世界でも堂々と見せられる。
 次に開けたのは綾香ちゃんからのプレゼント。中身は手作りのキーホルダーだった。可愛いので早速使おうと思う。
 三番目に開けたのはくるるさんからのプレゼント。中身は綺麗なハンカチセットだった。使うのが少しもったいないけれど、ありがたく使わせていただこうと思う。
 最後に開けたのはある意味一番ドキドキするリョーコちゃんからのプレゼント。中身は…………小さなクマのぬいぐるみ。
「……可愛い」
「リボーングッズとどっちにするかって最後まで悩んだらしいよ」
 可愛いぬいぐるみに目を奪われている私に向かって、けらけらとくるるさんが真実を告げてくれる。
 うわぁ、流石リョーコちゃんだよ。思わず遠い目をしたくなってしまった。
 それでも気を取り直し、私はくるるさんに言う。
「プレゼント、配達ありがとうございました。みんなの優しさ、ちゃんと受け取りました」
「ん、ならよかったよ」
 にこり、と優しく微笑んだくるるさんと私は暫く、あちらの世界の話で会話に花を咲かせることにした。
 その後帰ってきたお母さんに、お母さんと顔見知りであるくるるさんが挨拶して、軽いパニックが巻き起こったのは言うまでもなく。
 傍観者となった私がパニックを起こすお母さんのことを、凄く珍しいなんて思いながら見ていたのも言うまでもない。








面白かったら猫を一押し!