ある朝目覚めると、私の大好きな『家庭教師かてきょーヒットマンREBORN!』のコミックスが部屋からごっそり消えていた。
「あれ…………なんで?」
 まさかお母さんが捨てたのだろうか。
 いや、それはない。お母さんも、半年前から単身赴任している(でもどこにかは知らない)お父さんも『REBORN!』が好きなのだ。私の部屋に押しかけて何時間も居座りつつ読み耽るほどに。
 それに、私が寝ている間に捨てるだろうか?
 もしかしたらリビングに置かれたのかも、と思って部屋から出て階段を下りる。
 ここで少し自慢しておきたい。
 私の家の間取りは結構『REBORN!』の沢田家と似通っている。例えば私の部屋は二階にあるし、リビングダイニングは一階にある。部屋数も結構多い。
 何時だったか、同じ『REBORN!』仲間の親友に言われたことがある。
 あんたの家、リボーンが来てもおかしくないよね、と。
 私としてはリボーンよりディーノさんに来て欲しい。あのヘタレっぷりを拝みたい。
 …………ああ、でもお風呂は壊して欲しくないな。銭湯、嫌いだし。人が多いと気持ち悪いんだよね。
「おあよー」
「ああ、おはよう」
 そうこう考える間にリビングに着いた。頭がまだ働かないのか、少々舌っ足らずな言葉になってしまった。朝の挨拶は一日の基本、を行動理念(そこまでではないが、結構大事)にする私としては、無念だ。
「顔洗ってきなさいな」
「はあい」
 お母さんの言葉に促され、とりあえず顔を洗いに洗面所へ。
 冷たい水で顔を洗い、洗い立てらしくふわふわなタオルで顔に付いた水を拭い取る。
 リビングに戻ってきた私に席に着くように言い、お母さんは白いご飯とみそ汁と目玉焼きを出してくれた。
 朝食を食べながら聞く。
「ねえ、お母さん。REBORN知らない?」
「ああ、REBORN? ゴメン、隠しちゃった」
 お茶目にテヘッ、などと言いながら大して悪いと思っていない風に言い放つ。私にとっては爆弾発言を投下されたに等しい。寧ろ核爆弾か核弾頭ミサイルか。
「え、ちょ、ねぇ? あれ気に入ってたよね?」
「これからここで生活していくには何かと大変なのよ。あれがあると」
「……………………は?」
 今お母様は何を言いました?
 これから「ここ」で生活していく?
「ここって何処さ」
「あら、言ってなかったかしら?」
 にっこりにこにこ笑顔を浮かべながらお母さんは私を振り返った。心なしか、いや、絶対メチャクチャ嬉しそうだ。
 なんだか嫌な予感が心を過ぎった。
 聞きたくないような、聞きたいような、そんな相反する想いが心の中で対決し始める。
 そんな私を尻目に、お母さんは更に爆弾発言を言ってくれやがりました。
















「ここ、REBORNの世界の並盛町なのよ」
















 んな馬鹿な。
 つい声に出して突っ込んでしまいたくなった。でも今のはツッコミ待ちのボケだよね? 突っ込んでもいいとこだよね?
 どう考えても頭のおかしい人の発言としか取れないお母さんの言葉に、しらけた視線を流しておく。
「あ、信じてないわね? ってば」
「当たり前でしょ。信じられないってそんなトリップみたいな話。それは夢小説だけで充分だ!」
「うふふ」
 私の言葉に笑うと、お母さんはどこからともなく一枚の紙を出してきた。
 旅行会社のパンフレットにも見えるような気がする。
「じゃっじゃーん! これ、申し込んでたのよー」
 どれだよ、オイ。
 そう思いながらお母さんの手から紙を引ったくり目を通す。
 ええと、『あなたの行きたい世界に行ってみませんか? 行き先の世界と人数と期間はあなたが決める異世界生活ツアー』?
「何この悪徳商法も真っ青な馬鹿げたチラシは」
「馬鹿げたなんて言わないの! 本物なんだから」
 その自信はどこから来るのですかお母様。
「……それで、REBORNの世界を選んだの?」
「うん」
「何時?」
「半年前」
「お父さんは知ってるの?」
「うん」
「っていうかお父さんの単身赴任と時期被ってない?」
「お父さんは一足先にこっちに来てるから」
「………………………………は?」
 聞いてないんだけどーっ!
 ていうか単身赴任先って並盛町だったわけ? あり得ない! 羨ましい!……って、私まで悪徳商法に填ってどうするの。
「正確にはイタリアだけどね」
「……はひ?」
 あ、ハルが移った。ヤバイかも。
 訝しげにお母さんを見ると、にこぱーっ、と大人がする表情じゃないよねと言いたくなるほど朗らかな笑顔を浮かべる。
「だってお父さん、役柄的には綱吉パパ、つまり家光になるんだもの」
「役柄ーっ!?」
 これが叫ばずにいられるか。いや、いられない(何故反語)。
 なんて言うか、お母さんは私を驚き死にさせたいのだろうか。そう思うほど今朝から驚かされっぱなしなんだけど。
 …………ちょっと待て。今恐ろしいことに気付いてしまった。
 お父さんが家光の役柄ってコトは、つまりその妻であるお母さんは家光の妻の奈々役ってコトで、つまりその娘である私の役柄は…………。
「で、が綱吉、通称ダメツナの立場だから」
「う゛お゛ぉいっ! ちょっと待てやコラァァァァッ!」
 なんか色々混ざったが気にせずに思いっきり突っ込んでおいた。
 何も知らない娘にいきなり過酷な運命を背負わせるな!
 ヴァリアーと戦ったり、黒曜と戦ったり、ボクシング部部長と戦ったり、風紀委員長と戦ったり、クラスメイトの飛び降り自殺を助けたり、イタリアからの転校生と戦ったり、持田先輩と戦わなきゃいけないのか!? この私がっ!
 冗談じゃないよ今すぐ夢の中に戻りたくなってしまったよ平凡な日常という名の夢の中に。
 けれどそれは最後の爆弾発言に掻き消されることになる。




















「だからリボーン君が家庭教師に来るの。よろしくしてあげてね」




















 ………………悪夢だ。








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